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2014年9月19日 (金)

映画監督 想田和弘の言葉

http://www.magazine9.jp/article/soda/14678/
映画監督 想田和弘の言葉

素朴な「感謝」がファシズムを支えるとき

「以下抜粋・『永遠の0』向井理のことなど」


おそらく向井氏はポツダム宣言の意味を誤解しているわけだが、それほどまでに基本中の基本である事実を正確に理解することなく、靖国や戦死者に対する感傷だけをナイーヴ(naive)に表明し、読者と共有してしまう。読者も歴史的事実など考慮せず、素直に感動してしまう。この図は、なんだか現代日本の極めて典型的な光景のように思えたのだ。

 向井氏はこう書く。
「必死になって日本の行く末を案じながら散っていった人達のことを考えると感謝の気持ちで一杯です」

 そしてコメント欄の読者も、しきりに「英霊」に対する「感謝」の気持ちを表明する。というより、靖国史観に共感する人々からは、決まってこの「感謝」という言葉を聞く。

 それは一見、単に人畜無害な言葉にもみえる。彼らはきっと善意で無邪気に感謝を表明しているのであろう。しかしだからこそ、その言葉の強い政治性は自覚されにくく、余計にタチが悪いように僕は思う。ナイーヴであることは、罪なのである。

 そもそも向井氏らは「英霊」に感謝するとき、いったい何に対して感謝しているのか、つきつめて考えたことが一度でもあるのであろうか?いや、歴史を正確に知ることなく、自分が「何に対して感謝すべきか」を見極めることなど、そもそも可能なのだろうか?

 僕自身はもちろん、戦死者に対して素直に単純に「感謝」することなど、断じてできない。

 日中戦争から太平洋戦争で亡くなった日本軍兵士の数は230万人といわれるが、歴史学者の故・藤原彰氏の研究によれば、そのうちの6割は戦って死んだのではなく、餓死したのだという。

 物資の補給をないがしろにし、彼らを見殺しにした戦争指導者には憤りを覚えるし、無益な殺生をさせられた上に餓死させられた人たちは本当に気の毒だと思う。おまけに彼らが自らの死について「国や家族のためになる」などと本気で信じ込まされていたのだとしたら、洗脳とは全く恐ろしいものだと戦慄を覚える。

 だがそれは、「感謝」という気持ちとはほど遠い。というより、彼らの境遇や行為の本質を「日本の行く末を案じながら散っていった」などというセンチメンタルな言葉で曖昧にし、さらに「感謝」という言葉で無前提に美化することは、倫理的に許されないと思うのだ。

 ブログのコメント欄には、「生半可な覚悟じゃ、特攻玉砕なんて出来ない。命と引き換えに日本の未来を護って下さったのです」という文章があった。それは『永遠の0』を読んだり観たりした人の多くも抱いた感想であろう。

 だが、周知の通り、彼らが特攻を命ぜられた時期には、日本の敗戦はすでに決定的であった(というか、戦争を始めたときから負けることは分かっていた)。彼らがいくら敵艦に突っ込んで自爆をしても、それは敗戦の時期を多少先延ばしにすることはあっても、「日本の未来を守る」ことには決してならなかった。それはまことに無念かつ遺憾ながら、徹頭徹尾、「無駄死に」であった。彼らはむしろぜひとも生き残って、戦後の日本を作り上げていく存在になるべきだったし、私たちは彼らを無駄に死なせた人たちの責任を問うべきなのだ。

 にもかかかわらず、「特攻隊員が日本を守ってくれた」などと「感謝」するのであれば、それは彼らに自爆を強いた当時の戦争指導者の方針をも正当化することになる。ましてや感謝の表明を、天皇のために死んだ兵士だけを神として祀る靖国神社に絡めて行うことは、戦争ファシズムに協力した当時の日本の「素朴な庶民」と、何も変わらないのではないだろうか。

 今のうちに不吉な予言をしておく。

 もし万が一、安倍首相かその後継者が将来「戦争指導者」になったとき、向井氏らはやはり素朴に、善意で自衛隊員への「感謝」の念を表明するであろう。しかしそのとき彼らの頭の中には、「そもそも日本が戦争すべきかどうか」という疑問が湧くことはたぶんない。過去に起きた戦争の本質を問わない人間が、これから起きる戦争の本質を問うとは、考えにくいからである。

 彼らはそのとき、胸を張って、心に一点の曇りもなく、こう言うのではないだろうか。

 「戦争になった以上、今は戦争の是非を議論するときではない。日本人なら一丸となって自衛隊を応援し、英霊には感謝しようよ」

 かくして戦争そのものを批判し、戦死者に感謝しない人間は、「非国民」となるのである。

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