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2014年5月19日 (月)

平成の「5.15事件」

平成の「5.15事件」――戦後憲法政治の大転換
            
http://www.asaho.com/jpn/bkno/2014/0519.html
「水島朝穂」より抜粋


本来、安全保障政策の転換をはかるというなら、具体的かつ客観的な根拠を示しつつ、論理的かつ理性的に説明がなされるべきだろう。しかし、安倍首相は冒頭から、イメージと感情に訴え、安保法制懇報告書の極端に単純化されたモデルに基づき、強引な結論に導く強迫的手法を駆使した。この記者会見の要旨を各紙とも5月16日付に収録している。今回、定期講読している4紙に加え、『産経新聞』『日本経済新聞』『山梨日日新聞』の計7紙を入手して比較してみたが、記者会見全文を収録したのは、共同通信配信を使った『山梨日日』だけだった(他に『信濃毎日』なども全文収録)。同紙は『朝日』とともに安保法制懇報告書の全文(ここで読めます)も収録しており評価できる。テレビで見たときよりも、会見全文を通しで読んだ方が違和感はさらに増した。一国の首相の記者会見としては歴史に残る異様な風景だったので、あえて詳しく紹介しよう。

報道記事


何と情緒的な説明だろうか。2枚のカラーパネルを使い、オーバーアクションで熱弁をふるう。「私」が何度も出てくる。パネルには米艦に乗る乳児を抱く母親とそれに寄り添う幼児のイラストが。会見前日、「パネルで俺は勝負する」といって、首相自ら図案を決めたという(『産経新聞』5月16日付)。パネルをより大きなものに変更させ、米艦より母子の方を大きく描くことまで細かく指示したため、事務方は明け方まで大変だったようだ。

問題になっているのは、集団的自衛権の行使の問題であり、まさに国と国との関係にかかわる事柄である。日本が攻撃されていないにもかかわらず、他国の武力行使に積極的にコミットするということである。それを「日本人」の命を守るため、お母さん、子どもたちの命云々と声高に語っても、まったく説明になっていない。一夜漬けには限度があるようで、安保法制懇報告書が想定するケースのなかで、集団的自衛権から一番遠いケースを使って、集団的自衛権行使容認の結論に誘導しようとするものだろう。


さらに言えば、安倍首相は、反撃できずに「見捨てるのか」と言うが、集団的自衛権を行使した「後」のことについてまったく言及していない。日本が反撃すれば、「子どもたち」が乗っている米艦はただではすまない。日本本土への攻撃も行われるだろう。相手国の船にも被害が出るだろう。いずれにしても、たくさんの人が死ぬのである。まっさきに攻撃の目標となり得るのは沖縄である(5月15日は沖縄本土復帰42周年)。そのリアリティなしに、「私は日本人を守ります」とは言えないはずなのだが、記者会見をする安倍首相は自分の言葉に酔っているように見えた。「大本営発表の時代」だけでなく、いつの時代でも、こういう自己陶酔型が危ないのである。

『朝日新聞』は「論より情?」の見出しで安倍記者会見を報じ、政権幹部ですら、「本質的な事例を隠したのでは」と批判されることを率直に認めたという(16日付36面)。首相の目指す方向に親和的な論調の『日本経済新聞』でさえ、コラム「春秋」では、「情感にも訴えて得々と持論を説いた。意気込みはわかるが、本当に行使する局面はどんなときか、それがどこまで許されるのか、なお見えてこない」と苦言を呈している。

ところが、これを前向きにフォローしようとしたのがNHK(政治部=政権部?)だった。岩田明子NHK解説委員は記者会見直後に、安倍首相の想いまで懇切丁寧に「解説」していた。報道機関としては異例の踏み込み方である。これまでも彼女やNHK政治部記者の解説は、「安倍総理大臣としては…」という形で、まるで内閣広報室の担当官のような説明の仕方が目立ったが、この日のフォローは際立っていた。特に夜7時のニュースはすごかった。


防衛庁生え抜きで、官房長、運用局長、官房副長官補を歴任した柳澤協二氏は、「安倍首相が追求する政策目的が『米艦を守る』といった具体的な軍事技術的なものであるとすると、それ自体、首相が掲げる政策目的としては小さすぎ、法技術的にも他の選択肢があるため、憲法解釈を変更する必然性がない」とズバリ指摘している。そして、「安保政策の説明における抽象性・非論理性は、安倍政権の最大の特徴と言える」(同『亡国の安保政策――安倍政権と「積極的平和主義」の罠』〔岩波書店、2014年〕ⅶ頁)と書いている。私はここに「情緒性(情念性)」を加えたい。この特徴は安倍氏に一貫したものである。


ちなみに、京都女子大教授・市川ひろみさんによれば、安倍記者会見が行われた5月15日は「国際兵役拒否者の日」だという。ひょっとしたら、安倍首相は、「徴兵制違憲解釈」(1970年10月28日衆院内閣委 高辻法制局長官など)の撤廃に向けて、この日を選んだのかもしれない(そんなはずないか)。

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