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2014年1月16日 (木)

公安部捜査資料流出事件

警視庁公安部捜査資料流出事件:今回の判決の意義と問題点

河﨑 健一郎 | 弁護士


http://bylines.news.yahoo.co.jp/kawasakikenichiro/20140115-00031626/
「yahooニュース」より抜粋

警視庁公安部外事第三課のイスラム教徒に関する捜査資料がインターネットに流出したという事件をご記憶だろうか。

東日本大震災の半年前,2010年の10月末にその事件はおこった。

流出した資料の中身は衝撃的なものだった。

氏名,住所,生年月日といった本人特定情報はもとより,顔写真,電話番号,本籍地,前科の有無,入出国履歴,身体的特徴,モスクへの出入り状況,行動パターン・・・

ありとあらゆる個人情報が,「イスラム教徒である」ただそれだけの理由で,公安警察によって,包括的,網羅的,徹底的に洗い出されている実態が明らかとなった。

この事件に関して,警視庁と警察庁の責任を問う国家賠償請求訴訟の判決期日が本日だった。

私はこの事件の発端となった出版差し止めの件で代理人弁護士を務め,国家賠償請求訴訟の弁護団のメンバーの一員でもある。

その立場から,今回の判決について,若干の解説を試みることにしたい。

今回の判決の中で一定の意義が認められる点

1.インターネット上に出回った資料が,警視庁公安部外事第三課の資料であることを,認めたこと

これは,重要な点。

意外に思われるかもしれないが,実はこれまで,警視庁(東京都)も警察庁(国)も,インターネット上に出回った資料が自分たちのものであることを一貫して認めてこなかった。甲1号証という形で証拠提出された流出資料に対して,認否を拒絶するという不誠実な態度に終始してきた。

流出資料は膨大であり,客観的事実関係とほぼ一致し,どこからどうみても捜査資料としか考えられないようなものであったにも関わらず,認否を拒絶してきたのである。

当然、被害者個々人への謝罪もなされていない。そのことが、被害者をさらに傷つけてきた。

同時に,自分たちの資料であると認めないことで,組織内部での責任追及の問題もうやむやにしてきた。

裁判所によって正式な事実認定がなされたこと,そして後述するように流出に伴って生じた損害の賠償責任を認めたことにより,責任追及の問題がどのように発展するのか,注視する必要がある。

これまでのように,誰も責任を取らない,では許されないだろう。

なお,事件発生当時の警視総監は池田克彦氏。その後も順調に出世され,現在は原子力規制庁の長官となっている。

2.情報流出に伴う警視庁(東京都)の賠償責任を認め,原告一人あたり550万円の損害賠償を認めたこと

私たちが訴状で求めてきた金額は原告一人あたり1100万円であることからすると半額に留まるが,一定額を認容したという意味では,一応の評価はできる。

今回の判決の問題点

1.警察による,イスラム教徒を狙い撃ちとした情報収集自体の違法性を認めなかった

私たちは,問題の本質は,情報流出以前に,そもそも「イスラム教徒である」ということだけで,機械的・網羅的・継続的・組織的な情報収集の対象となること自体が,憲法の保障する信教の自由に反し,違憲・違法であると指摘してきた。これに対して今回の判決は,

「国際テロの発生を未然に防止するためには,モスクに通う者の実態を把握することが必要であり,そのためには,モスクの付近はもとより,場合によってはその内部に立ち入って,その活動実態をある程度継続的に把握するという態様によらざるを得ない」

と述べ,違法な捜査ではないと結論付けている。これは,信教の自由を不当に軽視するものであると言わざるを得ない。

実際に,キリスト教の教会に警察官が無許可で立ち入った神奈川県の事案で,神奈川県警は謝罪し,警察庁は信教の自由に配慮するようにとする通達を発している。


しかしイスラム教徒は,「イスラム教である」ということだけで,尾行の対象となり,センシティブな個人情報まで収集されてしまうというのがいまのこの国の現実なのだ。そうした現実を今回の判決は追認しかねない危険性をはらんでいる。

2.個人情報のデータベース化自体が問題であるとの指摘に対して判断しなかった

さらに問題なのは,収集した個人情報をデータベース化していることの危険性について,踏み込んだ判断を行わなかったことである。

これまで捜査における情報収集の問題と収集した情報の保管・データベース化の問題はあまり切り分けて論じられてこなかったが,インターネット上に一度情報が流出すれば取り返しのつかないこととなる現在の社会状況を前提とすると,保管段階の危険についても正面から議論する必要がある。この点の問題性を強く指摘してきたのが慶応大学の山本龍彦教授(憲法学)だった。

今回の裁判でも山本教授に意見書を執筆頂き,強く問題提起をおこなったポイントであったが,この点に対する応答はなされなかった。

3.イスラム教徒を狙い撃ちにした捜査自体が「差別されない権利」を侵害している点を認めなかった

今回の判決は

「収集された情報が,外部に開示されることの全く予定されていないものであることはその体裁等からしても明らかであって,本件情報収集活動それ自体が,国家が差別的メッセージを発するものであるということはできない」

として,公安部による捜査が憲法14条1項の定めた「差別されない権利」を侵害しているとの原告の主張を認めなかった。

しかし,実際に生じた情報流出により,

「イスラム教徒は,テロリストとして捜査対象になるような存在なのだ」

という誤ったラベリングがなされてしまったことは,「差別されない権利」を侵害する可能性が高い,ということは,首都大学東京の木村草太准教授に執筆いただいた意見書の中でも強調されている。


現時点での結論

総じて,今回の判決は,警視庁公安部からの情報流出によって生じた損害の賠償は認めたものの,「流出さえしなければ,イスラム教徒に対して,現在行っているような捜査を続けても構わない」との誤ったメッセージを発しかねず,大きな問題をはらんでいる。

今後,原告の方々と十分に協議した上でのことであるが,私たちが主張してきたこれらの問題点について,引き続き訴訟の場で争っていくこととなるだろう。

********

NHKニュースは、賠償問題だけを伝えていた。イスラムの言葉もなかったので、すぐにはこの事件と分からなかった。資料流出だけが問題にされていて、ではその中身は何なんだろうと。なんとなく、変な報道のしかただと思った。

この記事を見て納得である。特定秘密保護法の身辺調査を連想させるものであったのだ。事はイスラム教徒だけではない。すでに私たちのこととなっている。

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